第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
(私も、あなたのことが好きです――)
愛おしいという感情と、その答え。
フロイドの気持ちが嬉しかった。
本当は今すぐそう言いたかった。言えなかった。
きっとシェラの想いを伝えたら、フロイドはとても喜んでくれる。
だからこそ、言うことが出来ない。
ふたりを待つ結末がなんであるのか、わかっているから。
シェラは覚悟がまだ出来なかった。
刹那の恋に身を焦がし、愛しい人に無慈悲な別れの痛みを突きつける悪党の覚悟が。
シェラに恋をするということは、どういうことなのか、フロイドはわかっているだろうか。
どれだけ好きで一緒にいたいと願っても、離れなくてはいけない瞬間はやってくる。
いわばこの恋は、ふたりで手を繋いで地獄へ行くのと同じこと。
フロイドにはその覚悟はあるのだろうか。
訊けない。怖くて。
それでもシェラは、フロイドの気持ちに応えるように、抱きしめ返した。
私も好きだと返すことは出来ないが、それが今のシェラに思いつく限りの精一杯の返事だった。
フロイドの想いを断ることは出来ない。好きだから。
自分の気持ちに嘘をつくことは出来なかった。
夜空には満月が、フロイドとシェラを見守るようにして浮かんでいる。
時に優しく祝福するように、時に悪党になりきれないシェラを唆すように、青白い月はふたりを照らし続けた。
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