第6章 5. 人魚の純情
海中寮のオクタヴィネルは夜になると、壁一面ガラス張りの廊下が幻想的な青い光で包まれる。
ふたりの部屋は、この廊下を渡った先にあった。
フロイドに横抱きで運ばれている間も、シェラは気を失っているかのように目を覚まさない。
「ほーんとちっちゃいし軽いよねぇ。スカラビアの寮服はブカブカだし、腕もあしも細くて稚魚みたい」
普段服で隠れているシェラの腕や脚を見ながら、フロイドは好き勝手に思ったことを言う。
「ああでも、細いけど意外と腕には筋肉ついてんだねぇ」
ノースリーブの上着から伸びる、鍛えられたシェラの腕に気づいたフロイドは言った。
華奢であることに変わりはないが、細い骨の上にしっかりと筋肉がついており、しなやかな腕をしている。
「シェラさんは小柄で細身ではありますが、体術の成績は学年でトップクラスらしいですよ。中でも近接格闘術が非常にお強いとか。万全の状態であれば、スカラビアの追っ手もおひとりで追い返していたでしょう」
「へぇ。小エビちゃん強いんだねぇ」
ジェイドがどこぞで仕入れてきたシェラの体術の成績についての情報をつらつらと語る。
それを聞いたフロイドは感嘆の声を上げた。
「そんなに強いんなら、今度小エビちゃんのお手並み拝見してみよっかなぁ」
「フロイド、シェラさんには優しくしましょうね。さもないとそのうち嫌われますよ」
「冗談だよぉ。優しくしてるじゃん」
くすくすと笑いながらジェイドに釘を刺されると、フロイドは不服そうに唇を尖らせた。
部屋の前までたどり着くと、両手が塞がっているフロイドの代わりにジェイドが扉を開けた。
2人部屋で、それぞれのスペースにふたりの性格が顕著に出ていた。
向かって右側はジェイドのスペースで、モデルルームのようにきちんと整理整頓がされている。
向かって左側はフロイドのスペースで、服やら靴やらが散乱していて、お菓子のストックが山のように置いてある。
何も言われずとも、この部屋を見たらどちらがどちらのスペースかひと目で分かるだろう。
「ジェイドぉ、小エビちゃん寝かせたいからそこの服どけてぇ」
「やれやれ、日頃からもう少し綺麗な状態にしておきましょうね」
「はぁい」
甘やかし気味でジェイドはフロイドに注意をすると、服を拾い上げ布団をめくる。