第8章 ツキミソウ *中在家長次*
「和歌菜は私のものだ!!」
なんて言って彼女を抱え込んでしまっている七松だったが、
抱えられている彼女は声を上げて笑っている始末だった。
「あぁ~あ…結局取られちゃいましたね…。」
騒ぎに乗じて綾部が中在家の近くに来た。
綾部は悔しそうに七松の腕に中にいる彼女を見てはぁ…とため息をついた。
「いいんですか中在家先輩は。先輩も好きだったんでしょ?」
「・・・。」
中在家は、真意を突かれ肩を落とした。
あまり表に出さないようにしていたが、おそらく綾部は同じ者を好きな者同士であるがゆえに気づいていたのだろう。
だが、普段は無愛想な中在家が小さくフフ…と笑った。
綾部は普段とは違う笑みを浮かべている中在家の顔を覗いてみた。
「…私は、和歌菜が幸せなら、それでいい…」
「…自分が幸せにしたいとは、思わないのですか?」
綾部は中在家を不審がる目を向ける。
どうも綾部には理解しがたいようで、強引に七松に締め上げられている彼女を見て心配している。
「…小平太が、彼女を不幸にするようなことがあれば、私はいつだって奪うつもりだ。だが、彼女が心から笑える場所が小平太の隣ならば、私はそれを受け入れる…。…それだけだ。」
そう言う中在家の仏頂面で綾部に言う。
綾部はまたうーん…と考えるが、それでも理解はできないようだった。
ただ少しだけ・・・一理ある・・・なんて思ってしまった綾部が顔を伏せたのを、中在家は見逃さなかった。思わず綾部の頭に手を置いてポンポンと頭を撫でた。
*END*