第13章 新たな風
合宿2日目
今日で音駒との練習は最後
残りの日程は別の高校との練習になるから、今日のうちにやれることはやっておきたい
3年生が抜けたのはお互い様、多分向こうも同じように思っているだろう
「フライング一周〜っっ!!」
縁下さんの声が響く
孤爪さんのセットに振り回され、じわじわと追い詰められて1セット目を落とした
「クソがぁぁぁぁ!!!」
田中さんが叫びながら、フライングを始める
それに連なって僕も嫌々だけど…続く
その時に1年生相手に何やら熱弁している歩の姿が視界に入った
1年生は歩の話をコクコクと頷きながら真剣な表情で聞いている
歩は面倒見が良く、入ったばかりの3人がこの強烈なチームに馴染めるように、積極的に声を掛けて練習に参加させてくれる
そんな歩を慕って3人が付いて歩く姿は、さながらカルガモの親子のようだ
フライングを終えて、歩の元に向かうとドリンクとタオルが差し出される
「はい、お疲れさん…って何で半笑いなん?」
「いや、1年生従えてるのカルガモの母親みたいだなって」
「え、何?!カルガモ?!」
「鳥ってあれでしょ、孵化して最初に見たもの母親だと思って付いて回るじゃん」
「は?誰が母親やねん、まだ高校生やし、この子らと1個しか変わらんのにオカンはないやろ、なあ?」
歩は3人に言う
「あ、はい!オカンじゃなくて姐さんっす!」
時田が答える
「こら空、誰が姐さんや」
「え、でも白鳥沢の選手たちに姐さんって呼ばれてるんすよね?日向さんに聞きました!」
「アイツ…余計なことを」
「白鳥沢の選手たちに姐さんって呼ばれるなんて、マジカッケェっす!」
時田にキラキラした眼差しを向けられ歩は困惑する
その微笑ましい光景に思わず笑みが溢れる
「おい空、月島さん来てんだから気使えよ」
八乙女が時田に耳打ちすると
「あっ、ぼ、僕ら他の先輩たちにドリンク渡してきます!」
3人は慌ただしく立ち去っていった
「中々気のつくやつらだね」
僕は歩から受け取ったドリンクを飲みながら言う
「うん、みんな熱心やしええ子やわ」
「さっき、なんか熱弁してなかった?」