第12章 移ろう季節
ー月島side
「ちょっと待ってて」
そう言うとパタパタと足音をさせて歩は階下に降りていった
あぁ
自分がこんなに余裕のない人間だったとはね
最近の歩は部活が終わると、そそくさと帰って行くし
家に誘われたのも今日の今日…電話しようと思って忘れてたとか言ってたし
そして極めつけには影山との会話
過去のことだって分かってるけど、それでもモヤモヤと黒い感情が湧き上がってきて…ついあんな態度を
「はぁ…」
ガチャッ
ネガティヴな思考を遮るように勢いよく扉が開き、戻ってきた歩がヒョコッと顔を出す
「蛍、前に聞いた気がするんやけど1番好きな食べ物って何やった?」
「…ショートケーキ?」
僕がそう答えると、歩の顔がパッと明るくなり
「良かった!バレンタインにショートケーキでええんかな?ってなったけど」
そう言いながら彼女は、大きな皿を差し出す
そこにはホールのショートケーキがのっていた
「これ…僕に?」
「うん、で、これをやってたら日付が変わってまして…
昨日連絡出来んくてごめん」
苦笑いする歩
机に置かれたケーキには大ぶりの苺がふんだんに使われていて、見るからに美味しそうだった
あーあ
こうしてモヤモヤした感情を一瞬で晴らすのも彼女なんだから…
「ほんと…ズルい」
「…え?」
「…最近さ、部活終わっても早く帰ってたじゃん?」
「あ、うん!どうしても蛍に完璧なショートケーキを食べてほしくて、苺農家を探し回ってたんよ〜コッチ来て日が浅いから、どこの苺が美味しいんか全然分からんくて」
そう言って歩は照れ臭そうに笑う
あーもう
結局君も…僕のことばっかりなんじゃん
そう思うと愛しくて愛しくて
思わずギュッて抱きしめた
「わっ、ちょ…蛍」
「…部活終わりに毎日わざわざ苺探し回ってたの?僕のために」
そう言うと歩は僕の腕の中でコクリと頷く
「…どんだけ僕のこと好きなのさ」
「なによ、今更…そんなこと分かってるくせに」