第8章 それぞれの春高まで
クルッとこっちを振り向いた黒尾さんが、呆れた様子で
「リエーフの姉ちゃんが歩チャンとはぐれたっつーから、探しにきてみたら…ほんっと君って子は…」
「…ごめんなさい」
「こんなに隙だらけの無自覚彼女とか、ヒヤヒヤして心臓いくつあっても足りないっての。ツッキーに同情するわ」
頬を人差し指で突っつかれる
「む…」
そんなつもりないけど、隙だらけってのはツッキーにも再三言われてるし…反論の余地なしです
「でもまぁ…狙ってる側からしたら、隙だらけは大歓迎だけどね」
黒尾さんは妖艶に微笑むと、頬を突っついていた人差し指でそのまま私の顎をクイッとあげる
「ちょっ…」
「俺は冗談抜きで、ずっと歩ちゃん狙いだよ」
「…また…そんな」
黒尾さんは顎に触れていた指を離し、月のチャームに触れる
「でもツッキーに怒られんのヤだから、今日のとこは見逃してあげるね」
そう言ってニコッと笑う
本気とも冗談とも取れるような表情
「さて、みんな待ってるから行きますか」
私の前を黒尾さんが歩き出す
初めからそうやった
飄々としてて、本心がよく分からん人
でもあんな風に至近距離で顎クイされて、ドキドキすんなって言う方が無理やし
ほんで研磨さんもやけど…
着物まじで反則
みんなと合流して、夕方まで色んなものを見て、おばあちゃん達にお土産を買う
「歩ちゃんこのまま、帰省するんだっけ?」
アリサさんが名残惜しそうに言う
「あ、はい。今日は本当に楽しかったです!ありがとうございました」
「じゃあ…また来週?だよな」
夜久さんが黒尾さんに確認する
「次会う時は敵同士ですね」
「おうよ、ツッキーに覚悟しとけって伝えといてね」
黒尾さんがニヤッとしながら言う
私は音駒のみんなと別れ、従姉妹と合流して新幹線に乗る
「歩、どっか行ってたの?」
「あ、うん。浅草に」
「ふーん、デート?」
「ちゃう、他校のバレー部とみんなで」
「デジャヴ、前もそのメンバーじゃなかった?」
「んー、ディズニーとはまた違う他校」
「…そんな色んな他校と関わることあるの?」
「あんねん、それが」
「みんなの写真とかないの?」
「あるよ」
雷門の前で撮った写真をスマホに表示させる