第7章 選抜合宿
「あ、うん」
私はポケットからノートとボールペンを出す
「楽だよ、楽」
「…ラク?」
どうメモしていいのか迷ってノートを開いたまま固まっていると、翔陽が私の手からペンを奪って、ノートの半面にでかでかと
楽
と書いた
「黄金がさ、国見のプレーを楽しようとしすぎって言ってて、それでピンと来たんだけど、国見は最初の一発目のレシーブをポーンって高くあげるんだよ」
そう言いながら翔陽はレシーブの真似をする
「ファーストタッチを高く…か」
私は 楽 のページの横にペンを走らせる
「そんでそれ意識して百沢がポーンって高くレシーブあげたらさ、時間の余裕が生まれて2メートルでドカーンって!」
「…要約すると、ファーストタッチを高くあげることで自分だけじゃなくて味方にも余裕が生まれて、攻撃のバリエーションも増えるから2VS2で有利やと…」
「言語化してくれてありがとう」
「でもさ…それって人数少ない上に、不慣れなチームで不慣れな人間がセットアップする2VS2では有効やと思うけど、普通の試合でも通用するかな?例えばうちみたいな精密機械の影山ジャパンに、余裕のある高いレシーブなんて必要なんやろか」
「…分からん、でもさっきの百沢のプレー見たらさ…余裕持って高くボールをあげると、明らかに何か色々出来る!ってなって…楽していくって結構大事なんだなって思ったぞ」
「そっか〜まぁ確かに、長くて苦しいラリーが続いたりするとどんどんテンポ早くなっていってしまうからな…楽するっていうのを頭の片隅に置いておくのは大事かもしれん」
「そう!そういうことです!」
「てか翔陽…短期間でよくこんだけ色んなことに気づけるようになったな」
「お前に素直に褒められると照れるじゃん。俺、今までボールばっか追いかけてたけど、強い奴が何で強いかって考えるの結構楽しいな」
明らかに成長した翔陽の姿
男子3日会わざれば…か
ツッキーもそやけど毎日会ってるのにな
男の子はあっという間に成長していく
「やな、じゃあ私も近くで国見ちゃんの2VS2でも見ようかな」
「おう、行こうぜ」
それから私と翔陽は、国見ちゃんが明らかに視線に気付いて嫌がってるのが分かるぐらいガン見し続けた