第7章 選抜合宿
身なりを整えた彼女が、部屋の扉を少しだけ開いて
「大丈夫です!今のうちにいきましょう」
そう言ってパッと俺の腕を掴んで走り出す
「わっ」
2人で息を殺しながら小走りで女子寮を駆け抜けた
「もう大丈夫でしょう」
そう言って彼女はニコッと笑うと、俺の腕を離す
今の一連の行動に意味なんてない
そう分かってても胸の奥に複雑な気持ちが芽生える
「案内してくださいよ?」
「あ、うん」
俺は少し前を歩きながら、彼女に訊く
「そう言えば名前聞いてなかったね」
「私ですか?橘 歩です」
「…そ、橘さんね」
急に下の名前で呼ぶのもおかしいだろうし…
「ねぇ」
「はい?」
「その…牛島さんには…何て呼ばれてんの?」
「え、牛島さん…ですか?橘 歩って呼ばれてます」
「まさかのフルネーム」
「そうですよ!その前は真顔で軽トラ娘って呼ばれてました」
「あはは」
「笑い事ちゃいますよ!白布さんが私がぶつかったこと、軽トラに轢かれたとか言うからでしょ」
橘さんは軽く握った拳で、俺の肩を後ろからトンと叩く
「あ、食堂っ!白布さんありがとうございますっ!」
食堂を見つけた彼女は俺の前に出ると、ペコっとお辞儀をする
「うん、じゃあね」
俺は踵を返し、歩き出す
と、後ろから肩をグイッと引っ張られ
「夜這い、頑張ってくださいね」
彼女は耳元でそう囁くと、イタズラっぽく笑って手を振りながら食堂に入っていく
俺は耳を押さえながら振り返って、食堂に消えていく彼女を見つめていた
「今のは…反則だろ」
誰にも見られてなくて良かった
俺多分今、顔赤い
胸の奥に小さな棘が刺さったような痛み
これは俺の崇拝する牛島さんに彼女がいることへのショックなのか
それとも…
シャンプーの匂い
鼻腔をくすぐる甘い香りがいつまでも
いつまでも消えなかった