第6章 日常
ー歩side
昼休み、5組の教室を訪ねると、やっちゃんは机に向かって何かを描いている
「やっちゃん、何描いてんの?」
「あ、歩ちゃん!全国に向けて、また寄付金募るためにポスター作ろうと思ってて、ラフ画描いてたんだ!私にはこれぐらいしか出来ないから…」
「何いうてんの!ほんますごい才能やで、私こそ何も手伝わんとごめん。出来上がったら商店街とかに貼らせて貰えるように頼みに行こうな」
「うん」
やっちゃんの前の席に座りながら2人で話す
「私、作業の邪魔ちゃう?」
「全然!こうした方がいいとかあったら言って」
「ねぇ、橘さんだよね?」
急に頭上から声をかけられる
顔を上げると、見たことあるような、ないような女子生徒が2人立っていた
「あ、うん」
何やろ?と思いながら答える
私に話しかけてきた子は化粧が濃いめで髪を巻いた女の子
名札に赤井と書かれている
その半歩後ろに、やっちゃんと同じくらいの背格好だろうか、小柄で可愛らしい女の子が伏し目がちにしている
名札には西川と書かれている
「橘さんって、月島くんと付き合ってるわけじゃないんだよね?」
赤井さんが言う
ツッキーの名前が出るのは内心慌てる
なるべく普通に
「うん、そやで」
と答える
付き合ってはない
何か色々あって
自分の気持ちを自覚した気はするけど
現時点で付き合ってない以上
そう答えるしかなかった
「それならよかった、この子月島くんのこと本気で好きだから、あんまりベタベタしないであげてね」
赤井さんが西川さんの肩をポンと叩きながら言う
それだけ言って2人は5組の教室を出て行った
「な、なにあれ?!」
やっちゃんが鉛筆を机に叩きつける
「え、うん」
「歩ちゃんもどうしたの?!らしくないよ?!」
「らしくてなんや」
「いつもみたいに圧強めで言い返せばいいのに!」
「圧強めと思ってたんやな(笑)
…てか、私こーゆーの苦手なんよなぁ」
「西川さんもよくない!月島くんのこと好きで、歩ちゃんに文句あるなら直接自分で言えばいいのに」
「圧強そうで怖かったんちゃう」
「まぁ…確かに恋のライバルが歩ちゃんだったら、命の危機を感じるかも」