第1章 モーニングルーティン【承太郎】
「フフ…。」
あんた、毎朝ホリイちゃんとこんなやり取りしてるの?
突っ張ってるくせに、ほとほと甘ちゃんなんだから。
「承太郎。ママには通用しても、アンナちゃんには通用しないんだからね。」
ホリイちゃんの真似をしながら声をかけると、先ほどまで身動きひとつしなかった承太郎が勢いよく飛び起きた。
こちらを見て、ようやく自分がしでかしたことに気が付いたらしい。
目を見開いたまま、承太郎は固まっていた。
いつものポーカーフェイスはどこへやら。
承太郎のほっぺがみるみる赤く染まる。
あんたでも、そんな顔することがあるのね。
こんな赤面した顔、ほかの女性なら失神しちゃうんじゃないかしら。
レアな承太郎が珍しくて、思わず笑みがこぼれる。
調子に乗った私は、追い打ちをかけるように承太郎の声真似をした。
「あと5分、は待っていられないぜ…。アハハハ!」
こういう時、相手をからかいたくなるのはきっとおじいちゃん譲りだ。
私も大概、悪い性格してるなと心の中で自嘲する。
「…朝からやかましいぞ。」
口調こそ普段と同じものの、まったくもって覇気のない話し方に、ますます私は笑ってしまった。
「あ~ら、勘違いしたのは承太郎の方でしょ?それに、今更すごんでもかっこつかないわよ~。」
ニヤニヤし続ける私に言っても無駄だと思ったのか、承太郎は「はぁ」と大きなため息をついた。
こっちをジロリと睨むと、私の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
そして「みるな」と言わんばかりに、自分の帽子を私に被せる。
意外と子供っぽい反応するのね。
自分の感情を言葉や態度にしたがらない、あの承太郎がこんなにわかりやすく照れ隠しするなんて。
「大丈夫よ、承太郎。みんなには内緒にしておくわ!フフフ…。」
滅多に見られない反応に、いつまでたっても口元のニヤケは止まらなかった。
「…やれやれだぜ。」
いつの間にかポーカーフェイスに戻った彼は、私に背中を向けて洗面台へ向かった。
流石にからかいすぎちゃったかな。
仕方がない。承太郎の耳がまだ赤くなっていたことは、見なかったことにしてあげよう。
その後、一部始終を見ていたポルナレフが、承太郎をからかって返り討ちにあったのはまた別のお話。