第1章 モーニングルーティン【承太郎】
「承太郎、起きてー!」
洗面所で身支度をしながら声をかけるが全く反応がない。
普段は寝起きの良い承太郎だけど、たまにこうやって寝坊することがある。
しかも、そういう時は意地でもなかなか動かないのだ。
予定がなければもう少しこのまま寝かせてあげたいけれど…。
今日はもうこの街を出発しなければならないし、電車の時間も迫ってる。
私は仕方なく承太郎が寝ているベッドの方まで行き、その大きな体を揺らした。
「ほら!いい加減起きないと、集合時間に間に合わないわよ!」
力を込めてゆさゆさと体を揺すっているというのに、一向に起きる気配がない。
「もう、仕方ないわね。」
強硬手段として布団をはぎ取ろうと枕元に近づいたその時だった。
ちゅっ。
後頭部をつかまれた直後、頬にあたる柔らかい感触。
何が起きたのかわからず固まってしまう。
でも目の前に長いまつげとグリーンの瞳が見えて、承太郎にキスされたのだとようやく理解した。
「あと5分、だぜ…。」
キスをした当の本人は、焦点の合わない寝ぼけた顔でそういうと再び布団に潜ってしまった。
なんで私にキスなんか?
一体、誰と間違えて…。
そう考えた瞬間、思い浮かぶ人物は一人しかいなった。