第6章 ポルナレフ美容室【ポルナレフ】
「ここに座れってこと?」
「髪、とかしてやるからよ。フランス人のこの俺に任せれば、トレビア~ンな髪型になること間違いなしだぜ?」
「…私、髪の毛逆立てるのは嫌よ?」
眉をひそめながらポルナレフの方を見ると、彼は椅子を引いて、座れと催促してきた。
反対の手には、いつの間に持ってきたのか櫛が握られている。
「ほれ、こっち来い。」
ここにきて、本日二度目のため息をついた。きっとポルナレフは折れてくれないんだろう。
私は観念して鏡台の椅子の前まで行った。
ポルナレフが手をとってエスコートしてくれたので、おとなしく腰掛ける。
「…よろしく。」
「よ~うこそ、ポルナレフ美容室へ。」
「フフフ…。美容室なの、ここ。」
「そうですとも。お客さんのような、ダイアの原石を美しく磨きあげるのが私の仕事です。本日はどのように仕上げましょう?」
お店屋さんごっこなんて、いい歳した大人がさ。
それでも、何の恥ずかしげもなく店員になりきるポルナレフに、私も少しのることにした。
「今夜は愛しの人と晩餐会があるの。私を世界一可愛くしてちょうだい。」
「ウィ。お任せあれ。」
美容室のように世間話をするのかと思っていたけれど、
ポルナレフは私の髪を触り始めると、途端に静かになった。
髪型の仕上がりをイメージしているのだろうか。
右に髪をまとめたり、アップにしてみたり、ゴツゴツとした手で私の髪を軽く束ねて色々試行錯誤しているようだった。
あまりに真剣に髪の毛を触っているので、とりあえず私も黙って見守ることにする。
数分して、ポルナレフはようやく私の髪に櫛を入れ始めた。
もっと豪快に櫛を入れられるのかと思っていたけれど、壊れ物でも扱うかのように優しく丁寧に髪をとかしていく。
思ったより悪くないな、なんて思いながらポルナレフの好きなように髪を触らせる。
ぼーっと鏡を見ていると、ようやく髪をまとめ始めたポルナレフと鏡越しに目があった。
「妹の…シェリーの髪も、お前みたいな黒髪だったよ。もっとも、あいつは癖毛でまとめるのが大変だったがね。」
「ウェーブの髪、憧れるなぁ。でも、ポルナレフとは正反対の髪質ね。」
「たしかにな。何にしても、アンナの髪はまとめやすくて助かるよ。」
そう言って目を細めるポルナレフはどこか悲しげだった。
