水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第13章 名残の月
あやは天空の瞳が近くに来ると小さく首を振って微笑む。唇を閉じ、薬をごくんと飲み込んだ。そしてゆっくり目を瞑り、天空の胸元に顔を埋める。
天空は一瞬驚いた顔をしたが大きく溜息をついてあやをぎゅっと抱きしめた。体を離すとあやの頬にかかる髪を後ろに流し、少し眺める。
「あや・・・。そうすると思っていた。俺は嫌だと言ったのに。・・・お前は最後まで俺の言うことを聞かん。」
「・・・では、望み通り須磨の所へ連れて行ってやろう。」
天空はすぐに忍びの支度を整ると、あやを布でくるんで抱え、天元の屋敷へ向かう。
天元の屋敷の位置は凡そ調べがついていた。
あやは上手く自分の鴉を天元の所へ飛ばしたつもりだろうが、その後を天空の梟が付けていた。
段々と夜が明け、水色の空には乳白色の名残の月が輝いていた。
天元の屋敷の庭につくと天空は縁側にあやを下ろした。唇はもう色を失い、顔も青白かった。天空はあやの頬を指の背でそっと撫で、口づけをした。
そこに天元が任務を終えて戻って来た。
「・・空!・・・!!あや!お前、あやに何したんだ?」
「俺は何もしていない。あやが勝手に毒を飲んだ。自分で死ぬなら天元の嫁も道連れにすると脅したんだが、お前ならそれを守れると信頼したようだ。一人で死なせるのは可哀そうだからな。せめて須磨位は一緒に行かせたい。」
「・・・・空。解毒剤は?」
「無い。」
「んな訳あるか。毒と解毒剤は対だろうが。」
「・・・だとしても、俺が素直に渡す義理は無い。」
「お前、あやのこと好きだったんじゃねぇのかよ。」
「俺の言うことを聞かん嫁はいらん。殺しもしたくない、子も産みたくない・・・我儘すぎる。」
「・・・そりゃあ我儘じゃねぇだろうが。あやの尊重すべき意思だ。あやはお前の駒じゃねぇ。」
「くノ一が意思・・・ねぇ。・・まぁ・・碌な事にはならんと分かった。」
「ふん。・・元兄。ほら、お前の欲しい解毒剤をやろう。」
天空は小さな透明の瓶に入った液体を見せて、ぱっと体のどこかへ隠す。
「・・・取ってみろ。毒があやの命を奪う前に。・・・もうあまり時間はなさそうだが。」