水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第10章 天満月
あやの目から雫がポロリと零れた。嬉しくて涙が出たのは初めてかもしれないと思いながら、そっと指で拭う。
(でも苦しくなるから多くは期待しない。簡単には自分の命を諦めないようにするけど、生きることに縋り付かない。
そして、人生の幕も自分で引く。生きることも死ぬことも自分で選ぶ。なぜ人に委ねていたんだろう。)
あやが少し動いたので、眠っている天元は無意識に腕に力を入れて体を引き寄せた。
あやは天元の指にそっと触れて、指を絡ませた。天元様は寝ている時も優しい、と思いながら、枕にさせて貰っている天元の腕に耳を当て、ドクンドクンと動脈を流れる命の音をウトウトしながら聞く。そして目を閉じ、幸せな気持ちに包まれながら眠りに落ちた。
天元はほんの一刻ほど眠ると目を覚ました。辺りはもうすっかり明るくなり、廊下からは米の炊ける匂いと、味噌の良い香りがしてくる。まだ少しぼんやりする頭でそれを嗅ぎながら、朝餉ができたらあやを起こそうと考えた。
ふと、天元は腕の中のぬくもりに目をやる。また自分の命より大切なものが増えた。あやの茶色い髪を撫でようと自分の手を見ると、小さな指が遠慮がちに絡まっていたので、動かすのはやめた。可愛いなと笑ってそっと頭に唇を寄せると、ちらりと襟の隙間から首の傷が見えた。「ごめんな」と呟いてもう一度あやの頭に口づけを落とす。自分のせいで傷付けてしまったあやの心をこれから少しずつ癒していきたい。
・・須磨はあやを連れて帰ったら、・・やっぱりまずは泣くだろうな。そして笑うだろう。楽しみだ。
天元がそんなことを考えていたら、あやも目を覚ました。「天元様?」と、ぐっと頭を上に向けて頭上の天元を見る。天元は微笑みながら目を合わせる。
「お。起きたか?」
と、あやのおでこにちゅと口づけを落とす。あやは天元の行動に驚き、少し目を見開いたが、ふふと微笑んで言う。
「おはようございます。」
天元も微笑み返すとぎゅっと腕に力を込めて抱きしめてから腕を解いて体を起こす。
「よし。飯、食いに行こうぜ。」
「はい。」
2人で朝食を頂き、帰り支度をして帰路についた。他の隊士はもう出発した後だった。