水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第3章 最終選別
私は煉獄家の離れを貸してもらうことになり、少ない荷物を整理した。
程なく、杏寿郎様から早速稽古をするから着替えてくる様に言われる。
道場に向かうと、稽古着に着替えた杏寿郎様がいた。
杏寿郎様は私の一つ年上の15歳で、一年程前に選別を突破されたらしい。今の階級はもうすでに上から二番目の乙らしい。「様」は辞めてくれと言われたので、杏寿郎殿と呼ぶことになった。
杏寿郎殿は頭の回転が早く、自分の思考を言葉で伝えるのが得意なようで、教え方がとても上手だった。
屈託のない笑顔で私の顔を見て、
「よし、あや。まず目標を立てよう。」
と、鬼殺隊についての話を大まかに説明し、これから努力することを一緒に考えてくれた。
目下の大きな目標は最終選別で生き残る事。
小さな目標は炎の型を全て覚えること。
喫緊の目標は全ての基本である「呼吸」と呼ばれる、人間の力を最大限に引き出す息の仕方を身に付けること・・・らしい。
「呼吸」は肺を大きくして、多くの空気を吸い込むというものだそうだ。その空気が血液や筋肉、骨に作用し、体が強くなるというものらしい。
実際、杏寿郎殿に炎の呼吸の型を少し見せてもらったが、速さも力強さも並外れていて、目で追うのがやっとだった。さらにそれは道場内ゆえに、力を抑えたものだというから驚き、自分は鬼殺隊になるという任務が遂行できるか不安になった。
日々の目標もあり、朝、その日1日の内にやる事と、何に気をつけてやるかを教えてくれるそうだ。連日やる事と、隔日でやる事、週に数回やる事等いくつかの要素を組み合わせてられていて、飽きずに出来そうだった。杏寿郎殿は大雑把な所もある反面、なかなか緻密な所もあり、考え方が面白い。
来たばかりということで、その日の稽古は素振りを3千本したところで終わった。3千本の素振りを杏寿郎殿も顔色一つ変えずにやっていたが、私が弱音も吐かずに最後までやり遂げたことを眩しい位の笑顔で褒めてくれた。
里でも毎日のように忍術の訓練をしていたが、内容は指揮官の気まぐれだし、怒られたり殴られたりしたことはあっても、褒められたことなど無いので驚いた。そもそも他人にこのような全開の笑顔を向けられること自体が滅多にない。