水光接天 【鬼滅の刃/宇髄天元・弟】【中編】【R18】
第2章 師との出会い
大人たちが話を始めたので、私は聞かれたことだけを答えて、事の成り行きを見守る。
話を聞きながら様子を伺うと、部屋からは手入れの行き届いた庭が見えた。廊下や縁側の床板も綺麗に磨かれており、屋敷の中も隅々まで掃除がなされていた。
床の間には季節の花が飾られており、華道の嗜みがあるのだろう。池坊だろうか、背の高い塗りの花器に、蕾が沢山ついた2尺弱の紅梅の長い枝が一枝生けてあり、3つばかり綻び始めた梅の花からは甘い香りが漂っていた。あやはそういえば庭に立派な紅梅の木があったなと思い出す。
後に聞くと、長男の杏寿郎様が庭で目に付いた季節の花や枝を生けており、特に梅は枝が伸びるのが速いため、実益を兼ねてよく生けているんだと教えて下さった。「香りも良いしな。」と、枝の雰囲気と、いくつか種類のある花器との組み合わせを一瞬で選び、迷いなく剣山に差す。それだけなのだが、いつも調和が取れており大変美しい。
季節に応じて、玄関の花器や、大きな壷に杏子、木蓮や芍薬、桔梗、紅葉などを投げ入れか剣山に刺して生けてある。いつも大体一種生けで杏寿郎様の性格と似て嫌味が無く、潔い。杏寿郎様は生け花を褒めると少し恥ずかしそうに笑うので、あやはその顔が好きで必ず褒める。
花や枝を見る習慣は亡き母から教わったといつか話して下さった。
そういえば、天元様も花の種類には詳しく、良く教えてもらった。最も、忍びなので毒かそうではないかが中心だったが、ただ美しいだけの花の名前も良くご存じだった。
槇寿郎様と私を連れて来た人は少しばかり話をしていたが、そのうちに「頑張れよ。」と私に言い、帰って行った。
会話の様子や立ち振る舞いなどを見ると槇寿郎様は少し癖があって気難しい所がありそうだった。
そして槇寿郎様は傍で控えていた杏寿郎様に目を向けて言う。
「あやさん。息子の杏寿郎だ。この子に剣を教えてもらってくれ。」
槇寿郎が目で合図をすると、背筋を伸ばして正座していた杏寿郎が口を開く。
「初めまして!煉獄杏寿郎だ!今日から一緒に頑張ろう!」
はきはきとした大きな声で自己紹介をし、一礼すると此方を見ている。
「紫天城あやです。杏寿郎様、どうぞよろしくお願いいたします。」
と、あやも丁寧にお辞儀をする。それを見届けた槇寿郎様はさっさと部屋に戻ってしまった。