第13章 ハナミズキ
「『彼氏ではないが、後日彼女には自分の気持ちを伝えるつもりだ』って言ったじゃないですか。」
中彩の言葉に俺は反射的に自分の口を抑えた。俺は、今何を。
もう、隠せない。
一度言った言葉を誤魔化すことは出来ない。
瞬間に、俺は悟った。
「…言った。」
よもや、自分でも情けない声だと思う。俺の言葉に中彩の瞳が揺れ、頬が赤くなる。どちらが先か、俺は全身に熱が走った。熱い。俺を見る中彩の表情に目眩がする。視界が歪む。このままではまずい、
「家に帰ろう!」
咄嗟にそう言い、俺は中彩に背を向ける。そして考えるよりも先に足を動かした。エスカレーターを歩いて降り、人が集まる菓子売り場を抜ける。ただ、足を動かした。中彩の顔を見ることが出来ない。鼓動が、耳にうるさい。
堂々としろ、胸を張れ、自分の気持ちに強くあれ。
足早に歩きながら俺は思考する。そう、大したことはない、自分の想い人に意図せず、思いを告げるようなことを言ってしまった。それだけの事だ。遅かれ早かれ伝えるつもりだった。中彩がどう思おうと、俺の気持ちが変わることは無い。俺はそこまで考えてふと、息を飲む。
だが、中彩が、この気持ちを受け入れなかった時、俺は、俺はどうするのだろうか。その先を考えることが出来ない自分に気付いた。その時は、…
「煉獄さん!」
最寄りの駅に電車が着き、すぐさま電車を下りると、中彩が俺を呼び止めた。俺はその声にはっと振り向く。先程から無意識に中彩を振り切るように動いていたようだ。中彩は今にも泣き出しそうな顔で俺を見た。
「中彩……」
中彩に近付くと中彩は俺が両手に持つ菓子の袋の片側を持つ。そして俺の目を見た。
「今度の水曜日!!!道場の稽古、早く終わりませんか!!!」
声が震えている。何かに勇気を振り絞っているかのような声だ。俺は、中彩の言葉の意味がわからなかったが、無論頷いた。
「あ、ああ!早く終わらせる!」
中彩は俺を真っ直ぐに見て続ける。
「映画、見に行きませんか!!!煉獄さんが出てる、劇場版、鬼滅の刃、無限列車編!」
中彩は、今まで見たいつの中彩よりも、辛そうな顔をしていた。