第8章 初めての料理
「中彩!!!」
「っ!?」
私は耳元で煉獄さんが大きな声を出したことで飛び上がるように目を覚ました。すると、私は自分が煉獄さんを抱きしめるように煉獄さんの首に腕を回し自分に引き寄せていることに気づく。頬と頬が触れそうになるくらい煉獄さんの顔が近い。煉獄さんの顔は見たこともないくらい真っ赤になっていて、私は一瞬状況が飲み込めずにフリーズした。そして何か言いたげに震える煉獄さんの唇を見て、私は状況を理解した。
「ご、ごごごごめんなさい!!!!!」
私はあわてて煉獄さんから離れ、自分の布団の方へ転がり毛布にくるまる。半分まだ眠っている頭を必死にたたき起こしながら、必死に考えた。
どうして、どうして…昨日煉獄さんが抱きしめてきて、それでねむっちゃって、あれどうして私が今度は抱きしめてるんだ、なんで!?
考えでも考えても身に覚えがない。と、とにかく謝らなくちゃ。私は恐る恐る毛布から顔を出して煉獄さんを見ると、煉獄さんはカバッと体を起こしてぼーっとしたと思えば、突然自分のほっぺたを両方の手でばちーんっと強く叩いた。
「走る!!!」
「えっ、ちょっ」
煉獄さんは大きな声でただそう言うと、両頬が赤くなった顔のまま、ものすごい速さで運動着に着替え、私が止める間もなく部屋から出ていってしまった。
ばたん、情けなく部屋のドアが閉まる。
「ど、どうしよう」
私は煉獄さんがいなくなった部屋に取り残され、呆然とした。
手のひらいっぱいに触れた煉獄さんの少し癖のある髪の感触や近くなった煉獄さんの顔、煉獄さんの香りを思い出し、顔が熱くなる。どうしよう、どうしよう。
私はしばらくそれから先に思考が進まずに、ただ1人で何度もどうしようと言っていた。
どうしたものか、よもや、俺はどうしてしまったのか。
坂道を走った。中彩と歩いた根津神社や大学を抜けてただひたすら走り続けた。それでも熱が収まらない。俺の内側を溶かしては溢れ出るこの心情をなんともすることが出来ない。風を切りながら頭を冷やす。身体を動かし、熱を追いやろうとする。しかし、中彩の眠る顔や赤くなった顔が何度も脳裏を反芻して収めることが出来ない。穴があったら、入りたい。
「どんな顔して会えばいいの…」
「どのような顔をして会えば良いか…」
2人とも同じことを考えている、2月の終わり。
