第8章 初めての料理
それから、煉獄さんと私の時間が合う時に少しずつ鬼滅の刃を2人で見た。主に炭治郎の視点で描かれる物語だったので、煉獄さんの登場はないのが残念だったけど、鬼のこと、鬼殺隊のこと、鎹鴉のこと、日輪刀のこと、私は欠けていたピースを少しずつ埋めていくように、煉獄さんの元いた世界のことを知っていった。
一方の煉獄さんは炭治郎が懸命に鬼と戦い、自分と向き合う姿にとても満足そうに頷きながら見ていた。また、鬼の、鬼になる前の記憶が映ると、ほんの一瞬だけ、やるせないような表情をするのだった。
だが、最近鬼滅の刃を見れていない。何故かと言うと私の仕事が年度末に向けて忙しくなってきたからだ。先の展開が気になるようで早く続きを見たがる煉獄さんだったが、私がいない時に一人で見ようとはせず、待ってくれていた。しかし、特にここ数日は終電、そこまでは行かなくても遅くの電車で帰ることが多くなり、家に帰ると煉獄さんは先に眠っている生活になっている。私は煉獄さんを起こさないように静かにお風呂に入る。ここ数日は会話も少なかった。
そして、休み前である金曜日、今日も変わらず遅くなりそうだった。私は会社のトイレでスマホを取りだし、煉獄さんにLINEを送る。
「煉獄さん、ごめんなさい今日も遅くなりそうです」
すると少ししてから既読がつき、さらに少し時間を空けてから
「承知」
と返事が来た。まだ入力に慣れていないようで、煉獄さんからの返信はいつも至ってシンプルだ。
「明日明後日はお休みなので、どこかご飯でも行きましょうか。」
「承知」
私は煉獄さんからの返事に週末が楽しみになった。
「よし、もう少し、頑張るぞ……」
自席に戻り、再び大量の書類に目を通し始める。もしかしたら今日は比較的早く帰れるかもしれない。煉獄さんが起きている間に帰れるかな。そうしたら鬼滅の刃見れるかな。私は仕事をしながら頭の隅でそんなことを考えた。
「中彩さん、最近彼氏出来ました?」
「は?」
私の向かいの席の仲の良い同僚、山田くんが声をかけてくる。
「中彩さん、なんだか最近上機嫌じゃないですか?」
「私が彼氏いたら上機嫌になる女と思ってるの?」
「違うんですか?」
私は煉獄さんのことを考えて頬が熱くなる。それを見て山田くんはニヤニヤしたが、必死に否定する。煉獄さんとはそういうのじゃない。
