第6章 心のむずかしさ
「次に何か企てることがあれば、俺は許さない。」
そう一言花子ちゃんにそう言って煉獄さんは私の肩を支えるように抱いて歩き始める。その時、私は初めて自分の身体が震えていることに気づいた。煉獄さんはそんな私を見越すように支えてくれたのだ。そして「もう安心だ」と言った。それでも私は花子ちゃんが気になって後ろを振り向く。表情が見えない。路地裏を抜ける角を曲がるまで、地面を見つめて座り込む花子ちゃんと目が合うことは無かった。
家に帰ってくる頃には私の震えはだいぶ落ち着いていた。だが、花子ちゃんのナイフを振り下ろした時の表情が、瞬間が頭にこべりついて離れない。当たり前だが、人にナイフを向けられたのは初めてだった。あの時の衝撃が遅れてやってきた。とても、とても怖かった。
「中彩、危険な目に遭わせてすまなかった。俺の責任だ」
煉獄さんは深刻な面持ちで正座をし、私に頭を下げた。
「煉獄さんは何も悪いことしてないです。煉獄さんのせいじゃないですよ。むしろ、助けてくださって本当にありがとうございました。煉獄さんが助けてくれなかったら私…」
私は慌てて煉獄さんの顔を覗き込む。そして言葉の先を想像してまたも背筋が凍った。すると煉獄さんは顔を上げて私の手を握る。
「俺は知っている。君が強く、優しいことを。だから、強がらなくてもいい。俺の前で怖いと思った時は怖いと言っていい。君には俺がついている。」
「…」
煉獄さんは私を見つめた。私は煉獄さんの温かな手に触れて、ゆっくりと安心する。なんて心強いんだろう。なんて大きな手なんだろう。
「ほんのちょっと、怖かったです。」
私が笑うと、煉獄さんはその言葉に満足そうに私の頭をぽんぽんと撫でた。そして真剣な表情で私に向き直る。
「中彩、教えて欲しい。君は俺に何か隠しているだろう。花子少女、いや、道場の皆の俺に対する様子などを見ていればわかる。」
煉獄さんは更に私の顔を覗き込むように近づいてくる。私は先程路地裏で飲み込んだ言葉を思い出す。やはり伝えるべき時は、今なのか。私はそれでも迷う。
「俺は、君にとって、頼りないだろうか。」
私は首を横に振る。
「伝えるべきなのかよく分からくて…」
「構わん。聞かせてくれ。俺と中彩の仲、隠し事はなしだ。」
煉獄さんはやはり、どんな時でも真っ直ぐに言うのだった
