第1章 はじまり
「ぐっ……重い……」
気を失っている人間を起こすのは本当に一苦労だった。とりわけ腰に着いている刀が重い。服やマント?は濡れていた。
相手の両腕を自分の肩にかけて、背中で背負う。先程まで弄んでいた家の鍵をポケットから取り出すことすら一苦労で、鍵を開け、玄関になだれ込むように入った時には私も大汗をかいていた。
何とか相手の下から抜け出して私は肩で息をする。
「この後は、この後はどうすればいいんだ、考えなきゃ……」
私は背負った人間を玄関に下ろし、ひとまず相手を寝かせる場所を確保することにした。こたつを退かし、普段多めに重ねている敷布団をどかした場所に並べた。ワンルーム10帖のやや広めの家とはいえ、2人となれば手狭だ。
だが、来客用の布団があってとりあえずは本当に良かった。知らない相手と同じ布団で寝る訳にいかない、となれば私は床で寝るはめになるとこだった。それは本当に無理だ。
気を失っている相手は起きそうにない。もしかしたら、だいぶ弱っているのかもしれない。
「このままでは体が冷えちゃうよね…」
濡れた服のまま布団に転がす訳にも行かないだろう、だけど人の服を脱がすの?私変態扱いされない?大丈夫?ちゃんと確認してないけど、髪は長いけど、この体格の良さからして、多分、
男の人だよね……?
そんなふうに考えたところで、顔がかーーっと熱くなる。私はそれを振り払うように玄関にうつ伏せで転がっていたその人を仰向けにゴロンと動かした。
「わ…………」
とても綺麗な顔立ちをした、男性だった。なんだこれなんだこれ。特徴のある眉毛。どうなってるんだこれ。ポーっと見惚れたのもつかの間。我に返る。
ぐっしょりと濡れた相手の服をとりあえず脱がさくては。その後タオルで軽く拭いて……ってまじか……
「いやもうこれは人命救助の一環だから!やましい気持ちはなし!!なし!!!」
あーっと頭を掻きながら私は相手の服に手をかけた。そして改めて目を見張った。
「ど、どうなってるのこの服……??」
大きなマントはまるでこの人の髪色のように、炎をもしていた。
その下は男子学生が着る学ランのような服装であった。気を失っている相手は何故かとても心穏やかな表情でもう何も心配することのないような、
そして、まるでこの世にまるで未練がないような、とても幸せな表情をして眠っていた。
