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どうか笑って。【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】

第15章 ねぼすけ


恋仲になってから麻衣とは、たまに手を取って歩いたりするようになった。手を取って歩く時、麻衣も、俺も、慣れない感覚にお互いの顔が見れなくなる。麻衣の綺麗な指に俺の指を絡めて歩く時、とても心が温かくなる。今まで鬼殺隊として任務に当たっていたあの頃から、一度も知らなかった感覚だ。少しずつ、雪が暖かな日の光に当てられて溶けていくように、少しずつ、麻衣との距離が近づいている。

恋仲というものが一般的にどのように間を深めるのか、俺は知らない。大きく一歩を踏み出して触れ合いたいと言うことはまだ難しい。君の恋人として、俺は役割を果たせているだろうか。時折考えることがある。だが、このままでもいい、君はそう思わせてくれる。

朝寝ぼけている時の麻衣は幼子のように俺に甘えてくる。俺はそれをとても嬉しく思う。普段、恥じらう麻衣もとても愛らしいが、寝ぼけている時の麻衣が俺に寄り添う姿を見ると、俺は君に愛されているのだと自覚することが出来る。この時間だけは、君に触れていいのだと情けなくも安心する。

「杏寿郎さん…もう少し寝ましょう…」

「…君はそう言って起きないだろう……」

「もうちょっとだけ…ねぇ、いいでしょう…?」

甘い声と共に麻衣が俺の胸にその頬を擦り寄せる。俺の脈が、静かに、少しずつ大きく速くなっていく。だが、それと同時に麻衣の香りと背に受ける陽の光、その暖かさにまぶたが重くなってきた。そして麻衣の身体を引き寄せると、腕の中の麻衣から静かな寝息が聞こえてくる。高鳴る胸を落ち着かせるように、麻衣の寝息に自分の深い呼吸を合わせる。

ひとつ、ふたつ…みっつ、

いくつか数えたところで、気付けば俺の意識も微睡みの中へと沈んで行った。とても良い心地だった。この世の全てのどこを探しても、麻衣の隣以上に俺が気を抜ける場所は見つかることは無いだろう。君といる時の俺は無防備で情けない。だが、麻衣が危険な目に遭うことがあれば、君が辛く思う時があれば、一番に駆けつける存在でありたい。君の隣でこれからも、……

その時、俺は初めて二度寝をした。この平和な世界、愛しい君の隣で。冬から春へと季節が移りゆく休日の陽の光と、愛しい君と共に。
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