第15章 ねぼすけ
休日の麻衣の朝は遅い。時刻は既に9:00を回った。
朝の走り込みを済ませ、風呂から出て身体を拭きながら麻衣が眠る布団の方を眺めると、俺が家を出た時の姿のまま変わらず横たわっている。今日は道場の稽古も無い。そしてとても良く晴れていて、気持ちのいい日だ。どこか散歩にでも出かけるのが良いだろうと走り込みの途中、考えていた。だがこのまま麻衣を放っておくといつまでも起きないことは明白であるので、俺は麻衣を起こすことにする。毎朝の恒例だ。まず俺は窓の近くに寄る。
「麻衣!朝だぞ!起きろ!」
そして俺はカーテンを開ける。薄暗い部屋の中が陽の光で満たされ、部屋が温かくなる。こうして、引きこもりがちな麻衣を起こすのも大分慣れた。
だが、麻衣は唸りながら部屋に差し込む光から逃げるように毛布にくるまり、起きる様子がない。今日の麻衣は一段と寝坊助だ。
「起きろ!」
俺は麻衣がくるまる毛布を引き剥がして麻衣を陽の光の中へ落とす。だが、麻衣は陽の光へ背を向け、その暖かさに目を細めて寝言を言っている。
「うむ、こうなっては仕方ないな!」
俺は麻衣に近付き、麻衣の隣に横たわる。陽の光から逃げるように背を向けた麻衣を後ろから抱くように身体を添わせ、俺は右腕を枕に半ば起きる体勢を作ると、左腕を伸ばして麻衣の腰に手のひらを当て、くすぐった。
「ふはっはっ!」
「朝だぞ!」
「くすぐったいっ」
「起きるか?」
「へへへっへへっへ」
もう耐えられないと麻衣が笑い声を上げたので、その動きを止める。どうやら起きていたらしい。麻衣の顔を覗き込むと恨めしそうにこちらを見た。寝ぼけながらに浮かべるその表情も、とても愛らしいと思う。
「もう少し寝かせてください。」
「そうしているうちに、一日が終わってしまうぞ」
「いいんです、たまにはこういう日があっても。」
唇をとがらせて麻衣が俺の方を向く。そして身体を転がし、隣にいる俺に向き直ると、胸に収まってきた。背中に手を回し、引き寄せられる。甘えるように抱きつく麻衣に俺も温かな温度、その髪の香り、愛しさに目を細める。
「全く、今日の君は寝坊助だな。」