第5章 Episode:05
そうでしょう?と最後に締め括られて、ぴたりと、涙が止まった。
布団に押しつけていた顔を上げ、何度か瞬きをする。さっきまで白くぼやけていた世界が、今では不思議な程クリアになっていて。
すっかり夜が更けた外に、電気を点けていない部屋の中。
頼りになるのは窓から差し込む朧気な月明かりだけだっていうのに、目に映る全てのものがやけにはっきりしている。
(……うん、)
そうだよね、と一人頷く。
なんて筋が通った理屈だろう。自然に納得している自分が居るのが分かった。
きっとこれ以上弱くなることなんてない。だから、ここから強くなるだけ――――。
夜、の、はずなのに、朝日の目映い光に瞼をノックされたような。ゆっくり、ゆっくりと開けていく。
今やっと、目が覚めたよう、な。
(……野薔薇、ちゃん)
視界と一緒にクリアになった心が呼ぶのは、やっぱりただ一人だけ。
今なら、考えることが出来る。
野薔薇ちゃんが、どんな気持ちで私に優しくしてくれたのか。
どんな気持ちで、私にあのペンダントをくれたのか。
……ありがとう、嬉しい、と。
片眉を下げて、困ったような照れ笑いを浮かべる野薔薇ちゃんを、今なら心の中に思い描くことだって―。
「………っ」
もう、その場にただ黙って座り込んでいることが出来なかった。
目に溜まっていた涙をグイッと手の項で拭い、両足に力を入れて立ち上がる。
握り締めた拳。持って行くのは、貧弱だけど覚悟を決めたこの身体、だけ。
気が付くと、私はもう一度夜の街へと駆け出していた。
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