第2章 Episode:02
でも、また心臓が変な鼓動を刻み始めたのが分かった。
速いリズムに促されるように、口が勝手に動く。
「……ーんで…何で、野薔薇ちゃん、は」
「……?」
「何でそんなにやさしいの……?何で、」
私なんかに、やさしくしてくれるの?
自分でもめちゃくちゃな質問だと思う。どんな答えを望んでいるのかも見当が付かない。
でも、知りたかった。本当に分からなかったから。
こんな…こんな、神様みたいな人、何で私なんかの隣に居るんだろう。
何で、どうして――――。
「うーん。私が優しいかどうかは分かんないけど、そうねぇ」
そっと手を取られて、手の平が見えるようにゆっくりと上に返される。と、目に映った、身に覚えのない掠り傷。
少しだけ血が滲んでる。
一体どこで、と思ったけど、ハッとした。
後ろから蹴飛ばされて体育倉庫に閉じ込められた時、そういえば手から前に倒れ込んだんだった。
あるとすれば、その時しかない。
全然気が付かなかった。
「……或いは、周りの奴らが最低だから、私が優しいって感じるんじゃない?」
「………っ」
こんな小さな傷、私ですら気付いてなかったのに野薔薇ちゃんは気付いてたの?
そう思ったら、じんと目頭が熱くなった。
やっぱり違うよ、野薔薇ちゃん。
あなたが、やさしいの。
「なんか放っておけないっのよね。一人暮らしってのも心配だけど、ふわふわ…いや、やっぱりフラフラしてるから、心配。どっか知らないとこで倒れてそうで」
「っふ……なに、それ」
「そんなイメージなの」
野薔薇ちゃんのとぼけた言葉に、自然と笑みが零れた。
まともなご飯を食べたのも、こんな風に笑うのも、本当に久しぶりだ。
当たり前なことのはずなのに、全部が初めて経験することみたいに感じて。
胸の鼓動が鳴り止まない。
*