第2章 Episode:02
「……ー!……ー!……―!」
「!」
夢に、手を引かれた気がした。
いや違う。
どれもこれも、現実なんだ。
本当のこと、なんだ。
そう自分に言い聞かせて声がした方に意識を向けると、私の隣に野薔薇ちゃんが居た。
何で、って一瞬思ったけど、よくよく辺りを見回してみると、そこはいつもの帰り道ではなく、少し外れた大通りで。
道を間違えてることに気付かないなんて、本当にどうしようもないな、と心の中で苦笑する。
「通り過ぎてくの見えたから呼び止めちゃったけど…急いでた?」
「っあ、いや全然…ぼーっとしちゃってた」
ははっと力なく笑う。
長い前髪の隙間から、微かに表情が変わった野薔薇ちゃんが見えた。
何かに気付いたみたいに。
「何かあった……?」
「え……」
「元気ないっつーか、すごく疲れてるみたいだけど」
大丈夫?と顔を覗き込まれて。
あぁ、また。鼻の奥がツンと痛くなった。
どうして、野薔薇ちゃんはこんなにやさしいんだろう。
どうして、どうして…
言葉が出てこなくて、黙り込んでしまった私を見つめながら、野薔薇ちゃんが何かを思案してる。
そして。
「……一緒にごはんでも食べない?」
「え……?」
「なんか、フラフラしてて心配。私、もう学校終わったから……あ、でも家の人が支度して待ってるか」
「っい、いや、待ってない」
必死にかぶりを振って否定する。こんな力、まだ残ってたんだ。
でも、野薔薇ちゃんからのそれこそ夢みたいな申し出を、逃したくなかった。
「私、ひ、一人暮らしみたいなものだから…全然、その……」
「え、一人暮らしなの?」
「う、うん、そうなの。親がぜんぜ…あまり帰ってこないから、門限とかないし…だから、野薔薇ちゃんがいいんだったら…」
はっきりしない私を、野薔薇ちゃんは驚いたような表情を浮かべて見ていたけど、すぐにいつもの凛とした顔に戻って。
「だったらいいわね!決まり。行こ!」
早すぎる展開に、私の胸の密かな動悸は、終始鳴りっぱなしだった。
*