第2章 Episode:02
(良かった、誰も居ない……)
教室に戻ると、珍しく残ってる人は誰も居なかった。
ほっと安堵のため息を吐いて、急いでジャージから制服に着替える。
窓から、西日の強い光が射し込んでいて、痛んでいたはずの目は、いつの間にか慣れていた。
着替え終わって、帰ろうと支度をする。
おもむろにスマホをみると、視界に入った画面に目を疑った。
二回の不在着信。お母さん、からだ。
「!」
呆然としていると、唐突に着信中に変わった画面。
―お母さん。
バイブもオフのマナーモードにしてるから、音も何も出ない。
どくり、どくり。
無音の着信に心臓が嫌な鼓動を刻み、身体がひやりと強張っていくのが分かる。
正直、すごく出たくない。
でも、出なきゃ出ないで後で倍ひどい思いをするのは目に見えてる。
以前電話がかかってきたのはいつだったろう。思い出せないけど、大分前だった気がする。
そっと深呼吸をして、ゆっくりと通話ボタンを押した。
「もしもし……?」
『――――もしもし。?』
すぐ返って来る、少し震えた弱々しい私の声とは対照的な、お母さんのはっきりとした強い声。
でも、冷たい。いつだって、お母さんの声は冷たい。
、と呼んでくれた野薔薇ちゃんも、、と呼ぶ母さんも、どちらも同じ名前なのに、違う人の名前のような気になってきた。
『何で一回目の電話で出ないの?いつもならもう家に居る時間のはずでしょ?』
「ご、ごめ、なさ………ちょっとあの、……放課後先生に呼ばれてて、まだ学校なの」
『先生に?どうして、』
「そ、れは……」
咄嗟に吐いた嘘だったから理由なんか聞かれるとは思わなくて言葉に詰まっていると、電話越しに母さんのため息が聞こえた。
瞬間、ぎゅうと心臓を握り締められた感覚に陥る。
*