第1章 Episode:01
「……泣いてんの?」
「っ、いえ、泣いてない、で………」
とは言うものの、涙は勝手にぼろぼろ零れ落ちてきて。
駄目だ、と思うのに、張り詰めていた糸が切れて、頑丈だったはずの堰が外れてしまったような気がした。
今まで押し留めていたものが、溢れ出してくる。
止まら、ない。
止まらない――――。
「……っし、私、野薔薇ちゃんが、好き、なんで、す」
ぽろりと零れ落ちてしまった言葉に、野薔薇ちゃんの動きがピタッと停止したのが分かった。
でも、もう後戻りは出来ない。
「初めて見た時、から、好きだったの。憧れ、だった、の。遠くから見てるだけで、も、幸せで、嬉しくて、生き甲斐で。だから、お店が好きで通ってた訳じゃ、なくて。似合わないって、分かって、る、し。だから……」
「…私に会いに通ってたの?」
「っ、ごめん、なさ……っ」
最後の方は、もはや言葉になっていなかった。
拭っても拭っても止まらない涙。
それと同じように、溢れ出るままに、全てを吐き出してしまった。
終わったと思った。
始まってもなかったけど、今度こそ終わってしまったと思った。
足が動いてくれないから、この前みたいに逃げることも出来ない。
沈黙が、痛くて、こわくて。
でも。
「…………ふ、」
不意に、静寂を破ったのは――――。
「ふふふふ……ははは!」
「!?」
突如響いた、豪快な笑い声。
でも誰の?
私は笑ってないんだから、一人しか居ない。
野薔薇ちゃん、だ。
*