第1章 Episode:01
すぐ帰れば大丈夫だろうと思ったから性懲りもなくのこのこやって来たのに、結局このザマだ。
野薔薇ちゃんが私のこと覚えてるかは分からないけど、でも…これ以上迷惑かけたくない、私も消えなきゃ。
「あ、りがと、ございました……」
あぁ、鼻声になっちゃってる。本当に情けない。
それだけ、それだけ言って立ち去ろうと思った。
なのに…。
「…私、あなたに用があるんだけど」
「え……」
「ちょっと待って」
と野薔薇ちゃんがカバンの中に手を入れる。
早い展開に頭の中は真っ白だ。
え、え。
何が、起こって、る?
「えーと……あ、あった」
カバンから何かを探し出してきた野薔薇ちゃん。
それを、呆然としている私の顔の前にズイッと突き出した。
「コレあんたのでしょ。""ちゃん」
「あ……」
呼ばれたのは確かに私の名前で。
前に見えるそれは、私の顔写真が貼ってある学生証だった。
何でこれがここに?
写真と私を見比べて、野薔薇ちゃんが言う。
「この間お店の前で会った時、落として行ったでしょ。また来るかなと思って私が持ってたんだけど、全然来ないからどうしようかと思ってた。無くて困んなかった?」
「!、い、いえ……っ」
滅多に使わないから、なくなってたことさえ気付かなかった。
それをずっと持っててくれたなんて…気にかけて、くれてたなんて…どうしよう、嬉しい。
嬉し、すぎる。
嬉しすぎて、何だか。
何だか、哀しく、なった。
*