第1章 Episode:01
鼻の奥がツンと痛んで、じわり。涙が滲む。
あの店に通ったのだって数回。
しかも見ているだけ、同じ空間居ただけだったけど、でも、何でかな。
野薔薇ちゃんの声も佇まいもいつも凛としてて、取り巻く空気すら華やかで。
遠くからでもそれに触れるたびに、私の枯れ木みたいな心は少しずつ少しずつ地面に根付く力を取り戻しつつあるように思えてた。
そうだ。野薔薇ちゃんを知ってからは、こういう体調の浮き沈みも少なくなってたんだった。
野薔薇ちゃん。野薔薇ちゃん。
(……あいたい)
会いたい。
野薔薇ちゃんに、会いたい。
自然に動く身体。
立ち上がって、身仕度をし始めてる自分が居る。
(まだ店開いてるよね……)
野薔薇ちゃんが居るかは分からないけど、行ってみよう。
見るだけ。外から見るだけでいい。
そしたら、気付かれない内にすぐ帰って来ればいい。
スマホを手に持って鍵と財布をポケットに入れて、日が沈みがかった街へ行くべく一歩足を踏み出した。
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