第1章 Episode:01
どうしようどうしよう。
色んなことが入り混じって、すごく混乱してる。
だって有り得ない。野薔薇ちゃんの瞳に、私が映って―……
「……あなたもこの店よく来てるわよね」
「!?…….え」
予想もしてなかった言葉。
更に続けられた内容に、ごちゃごちゃしていた私の頭は一瞬で真っ白になってしまった。
「土曜日によく会うなって思ってたの」
「………!!」
普通は、気付いてくれてたことに嬉しさを感じるものなのだろう。
でも、どこまでも後ろ向きで陰欝な性格の私は違った。
咄嗟に思う。
まさか、気付かれてたなんて……
絶対気持ち悪いって思われてる。ジロジロ見るなよ、とか、こんな可愛いお店に私みたいなのが入ってくるな、とか。
そんなことが、真っ白な頭の中を物凄く速いエンドロールみたいに駆け抜けていく。
心臓が、濁った生きてる音を急ぎ足で刻んでいて。
でも身体は動かない。
どうしよう、私をは一体どうすれば。
見るからに尋常じゃない私の様子に、野薔薇ちゃんの瞳が少しだけ瞬いた。
「…大丈夫?何か顔色悪いけど」
「っ!」
覗き込むようにして私を見上げる野薔薇ちゃん。
何故か、今だ、と思った。
弾かれるように地面から離れた足をそのまま前に突き出し、ぐっと力をこめる。
勢いに身を任せて、私はその場から逃げるように走り出していた。
カバンのポケットから落ちた、学生証の存在には気付かずに。
「………」
その上、それを野薔薇ちゃんがそっと拾い上げてくれてたなんてこと、思いもしなかった。
*