第15章 かぐや姫と姫さんのお茶会
「思ったより遅かったな。お前は早く来るやつかと思ってた」
「来る前に一悶着…いや二悶着くらいありました」
「日吉丸と吉法師が致してる現場にでも出くわしたのか?」
「だいたいそんな感じです」
陽臣が冗談混じりに言ったことがまさか事実だったとは誰も知らない。
「それで陽臣様、御用件は?」
「主に三つ。一つ目、嫁の体調が芳しくないから診てほしい。二つ目と三つ目は繋がっているからお前の要件が終わったら話す」
「分かりました。ではまず奥さんの方を」
「頼む」
案内された部屋の中には、一人の女性が床に臥せっていた。
華音がそばに座ると、女性はゆっくり目を開けた。
「こんにちは」
「……はるさん…?いえ空……?」
「女です」
確かに似てるけど。
妻兼母親なら間違えてはいけない。
「陽臣様と空臣の血縁関係にあたる者です。継国華音と申します」
「…そうなの。私はつぐみ」
「つぐみ様、早速で申し訳ありませんが、貴女を診させてください。私は医者です」
「そう…はるさんが頼んだのね。任せたわ」
つぐみという女性は華音の補助付きでゆっくり上半身を起き上がらせた。
華音は筆と紙を用意して、患者の基本情報をさらさらと書き留める。
現代ではこれをカルテという。
患者の守秘義務があるので日本語では書かず、仮にその言語が分かる人だとしても頭を捻らなければ読めない書き方で。
「簡単な質問から始めますね。まず___」
この時間に頭痛はするか、腹痛はどのようなものかなど、さまざまな質問をしてつぐみの病気を特定する。
「…分かりました。最後に、ご不快に思われる質問かもしれませんが、第二子を出産したいという想いはありますか」
「どうして?」
「子が産めるくらいの回復をするための治療をするのとしないのとでは、治療期間中の貴女の体の負担が違いますから」
「なるほどね。その質問は“いいえ”よ。ただでさえ空と触れられる時間が短かったのに、望めるならこれ以上は削られたくないわ」
「母親の鑑ですね」
「そうかしら?」
嬉しそうに笑うつぐみの表情は、華音には己の母を思い起こさせた。