第14章 姫さん、特訓する
「戦に用いる武具についても、知識をひと通り頭に叩き込んでもらうぞ。これが先日の戦で使った種子島だ。持ってみるか?」
「はい」
次の日の講義は火縄銃についての指南。
光秀から手渡された種子島を、華音は両手で受け取った。
「重いですね」
「…その割には軽々だな。丁重に扱うように。ひとつ誤れば自分の手が吹っ飛ぶ愉快な代物だからな」
「治しがいがありますね」
「愉快なのはお前の頭だったか」
どうやって手が吹っ飛ばないかというより、どうやって吹っ飛んだ手を治すかに注目する華音の心内を完全に理解する日は遠い。
種子島の手入れの飲み込みが早かった華音は、その日のうちに的に撃つ指導に移った。
「撃ってみろ」
「…指示が簡潔すぎませんか」
そう言いながらも正しい手順で火縄銃を撃つ準備をして、的に向かって構える。
(……中る)
未だ嘗てなかった感覚に、引き金を引く直前に華音は気づいてしまった。
戦場で何度も聞いた銃声ののち、最初に口を開いたのは光秀だった。
「どういうつもりだ。何故外した」
華音が的を外したのは、光秀にとって予想外のことだったのだろう。
的中はしなくとも、擦りはすると思っていた。
「……怖気づきました」
「………」
「今、中るって思って、玩具でもなんでもない、本物の人を殺せる武器で、高揚した自分が気持ち悪かった」
華音が身近で死を見たことは数え切れないほどあった。
面倒事に巻き込まれて、やむを得ず暴力を振るったこともあった。
他人の人生を台無しにしたことだってあった。
しかし、“人を殺す”という一線は決して越えていなかった。
だから今、その一線を越える方法を掴みかけた自分を拒絶したのだ。
「……目を逸らさないな。お前は」
怖いと言えるのは、自分を受け止めている証拠。
圧倒的な力を前に血が沸き立つことに気づける人間は、そう多くはない。
特に、この乱世において。