第14章 姫さん、特訓する
「…本当は、この人を助けてあげてくださいとか、身分も性別も関係ないとかそれらしいことを言って秀吉どのに場を預けるべきだったのでしょう。ですが、私はそれらしいことよりも先に理屈を言った。
…最低です。医者を名乗るなら、命を大切にしろと言うべきなのに」
「それは違う」
考える間もなく、光秀は華音の言葉を否定した。
「先程もしお前の言う“命を大切に”と口にしていたら、状況はさらに悪化していた。それこそ秀吉がいなかったら蘭丸は斬られていた。そんな理屈が通用するほど甘くないからな。
だがお前は状況を即座に把握し、誰よりも正しいことを言って場をおさめた。でなければ、秀吉もあの者も納得しなかっただろう」
光秀ははっきりと、華音は正しいと言った。
自分の言ったことに責任を持てる華音を、誰よりも正しいと思ったのだ。
「まあ、秀吉がお前を認めたのはもう少し前だったらしいが」
「?」
「お前達が仲良く飯を食べに行った時だ」
「ああ、秀吉どのの奢りの」
思い出したが、あの日がどうかしたのかと言わんばかりに華音は首を傾ける。
『___信長様が必要としたのが、ただ名のある武将ではなかったというだけの話では?』
どれだけの人間があの言葉を欲していただろう。
子供の屁理屈とは全く違う。
この世の不条理や黒い部分を理解した上で、それでも己の価値を己で示し、あのようなことが言える人間がどれだけいるか。
少なくとも光秀は知らない。
そして、おそらく彼らも知らない。
継国華音のような、己の力で確固たる強さを手に入れた女のことなど。
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