第14章 姫さん、特訓する
「…疑いの段階とはいえ、裏切りを許さんとする貴方の忠誠心には敬意を表します。それに冷や水をかけるような真似をしたことは申し訳ありませんでした。
しかし、そもそも仮に裏切り者だったとして、処遇を決めるのは貴方ではないはずです。そうでしょう秀吉どの」
「華音の言う通りだ。処遇をお決めになるのは信長様だ。それまで蘭丸の身柄は俺が預かる」
「……はっ」
侍は先程のとは打って変わって落ち着いた様子で刀をおさめた。
華音の声と言葉でいくらか冷静になり、冷静になった頭で何が最善かを見つけたのだろう。
「華音様、刀を向けてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、私は気にしておりません」
華音に頭を下げ、最後に秀吉と光秀に向かって一礼して去っていった。
とりあえずひと段落ついたと、華音は息を吐いた。
「…大丈夫?」
「お姉さんありがとう!ほんとのほんとにありがとう……!」
「俺からも礼を言う、蘭丸を庇ってくれて助かった。それと、今までお前という人間を誤解してすまなかった」
秀吉は華音に頭を下げた。
実を言うと、秀吉の誤解はもう少しだけ前に解けていた。
本当ならもっと早く言うべきだったが、今になってしまったのが秀吉にはやや悔やまれる。
「…頭を上げてください。秀吉どのの言う“誤解”は、それこそ信長様への忠誠心のものだったのだから」
「……ああ。あとで改めて礼をさせてくれ。蘭丸、信長様のもとへ行くぞ」
「うん……ええっと、華音様って言ったっけ。このご恩、絶対ぜったい忘れないから!」
「…うん。また、蘭丸くん」
気にするなと言ったところでこの二人には効果がないだろうと、華音は二人の厚意を受け取っておいた。
「命拾いしたな、蘭丸。ひとまずは、だが」
「………」
光秀の不穏な言葉を最後に、蘭丸は黙って秀吉と共に去って行った。
「意外だったな。お前が蘭丸を庇うとは」
「意外って?」
「お前が効率を好む性格なら、あの場を俺か秀吉に任せた方が確実だった。だがお前は自ら前へ出た」