第14章 姫さん、特訓する
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「この恥知らずめ、成敗いたす!」
「待って、お願い!」
「「!?」」
秀吉は光秀が朝の軍議に顔を出さなかった理由を問い詰めたが、光秀は野暮用だと言ってまともに答えなかった。
痺れを切らした秀吉が光秀の胸ぐらを掴んだ時、向こうからドタドタと走る音が近づいてきて、華音の後ろに人影が隠れた。
「お姉さん、助けて!」
「ん…?」
「これはこれは…まさかのご帰還だな」
「蘭丸、無事だったのか……!?」
状況が飲み込めない華音に対して、一人の侍は刀を抜き、秀吉と光秀は後ろの人物を蘭丸と呼ぶ。
(蘭丸…森蘭丸?)
華音のなけなしの記憶と知識を掘り返し、信長の部下の一人である森蘭丸という人物を思い出した。
「華音様、おどきください。不届き者を庇い立てしてはなりません!こやつは火の手の上がった本能寺で信長様を見捨てて逃げた裏切り者!死して償え、蘭丸!」
「殺すのは待って!せめて信長様にひと目会わせて!謝らせて……!」
蘭丸の悲痛な声を耳した華音は、左腕を広げて蘭丸を庇う体勢をとった。
「お願いします。刀をおさめてください」
刀を抜いた侍を前にしても物怖じするどころか、蘭丸を庇った華音の行動に皆が目を見開く。
「華音…?」
華音の妙に落ち着いた穏やかな声は、相手の怒りを増幅させるどころか、刀を握る手の力が明らかに弛んだ。
華音が蘭丸を庇う理由が取るに足らないものだと思ったのか、それでも相手は反論する。
「っ高貴なご身分のお姫様にはおわかりにならんでしょうが、男が一度武士になったからには……」
「私は第三者として二人の主張を聞きました。貴方は信長様を裏切った彼を斬りたい。彼は信長様に謝りたい。ならば、彼が信長様に謝罪してから沙汰を決めても遅くはないでしょう」
華音の言っていることは正論だった。
相手が蘭丸を裏切り者だと言うのは、あくまで“そう”思っているからであって明確な証拠はない。
今ここで斬り捨てたらそれが曖昧のまま終わってしまう。