第14章 姫さん、特訓する
「部屋へ移動しましょうか。座布団あるので」
道場から一番近い部屋は一時的に光秀と華音が貸し切りにしており、いつでも勉強と切り替えできるようになっている。
効率を好む光秀と華音らしいやり方だ。
全員が座布団に座って茶を飲んで一息ついたところで、もう一人の客がやって来た。
「こんなところで集まって油売って、全員暇人なの」
「家康どの、お疲れ様です」
「あんたの方が疲れてるように見えるけど」
「………」
先程政宗にも全く同じことを言われたところだった。
そんなに自分は顔に出ているのかと華音は少なからず衝撃を受け、政宗と蘭丸は必死に笑いを堪えた。
「家康様も華音様に差し入れですか?ぜひご一緒いたしましょう」
「は?どうして俺がこの子に差し入れなんてしなきゃならないの。変なこと言うなよ、三成」
「じゃあ手に持ってるそれはなんだ? 見せろ、家康」
「ちょ、政宗さん…っ」
家康の持ってきた壺の中には、唐辛子で漬けられた漬け物が入っていた。
普段家康が好む量よりかなり少ない。
どう見ても他人に渡す用のものだ。
「なーんだ、やっぱり家康様も差し入れにきたんじゃん。お茶請けによさそうだね」
「……作りすぎて余ったから、華音にでも渡して処分しようと思っただけ」
「相手に遠慮をさせない物言い…さすがは家康様です」
「違う、ただの事実。じゃ、俺はこれで……」
「ねぎらいの品だけ届け、長居はしない……これが本物の気遣いなんですね!」
「お前と話すとほんと疲れる……」
「すみません家康どの。あなたの分のお茶と饅頭の用意してしまいました」
「流石華音」
家康が三成と話しているうちにさっさと家康の分も用意してさりげなく逃げ道を塞ぐ。
先程まで満身創痍だったとは思えない行動力である。
「…良い茶葉だね」
「秀吉様がご用意してくださったんですよ。華音様によろしくと仰っていました」
「あの世話焼きが顔を出さないとはな」
「まあ、そうなるでしょう。光秀さんが指南役なんですから」
光秀と秀吉は、皆が認めるくらいの犬猿の仲である。
蘭丸が城に戻って来た時も喧嘩寸前だったなと、華音は思い返した。