第12章 月の国の一族
「分かりません」
理系だったから日本史はとっていなかったとか、歴史関連の成績が悪かったとかではない。
華音がこの時代に来た時から、あるいはそれよりも前からここは華音の知る歴史ではなくなっていた。
信長は魔王なのに金平糖が好きだし、秀吉は酒が弱いし、光秀は光秀だし。
武将達全員顔面タイムマシンに轢かれたのかって思うくらい若々しいし、肌年齢おかしいし。(医者目線)
「本当に何も知らないのか?」
「将来的な秀吉どのの側室の数なら、まあ覚えてます」
「なんでそこだけ覚えてるんだよ」
「覚えちゃうような数だったんじゃない?」
「五百年も歴史に刻まれるほどにな」
華音の言葉は丁寧な分トゲがある。
そのトゲは男達の重心を貫く威力を誇る。
というか、継国一族が容赦ない。
「…俺が誰を正室や側室に持つかも分からないのか?」
「…………、分かりません」
「嘘つけ」
たっぷり数秒置いて答えた。
これはさすがにアウトだと秀吉が指摘する。
「本当に分かりません。色々なものが介入したので、これから増えるかもしれませんし、減るかもしれませんし、増えるかもしれません」
何故彼女は増える方に重心を置いているか知らないが、嘘をついているようには見えない。
「まあいい。で、貴様が未来から来たことは他の奴らには打ち明けるのか?」
「今までと変わりませんよ。隠さないし自らは話さない。訊かれたら答えます」
今回とてそうだった。
華音はあくまで信長に訊かれたから答えたのだ。
信長や秀吉と同等の信頼を置いている人達相手にもそれは変わらない。
強いて言うなら、佐助には自分から言うべきだと思い継国の姓名を打ち明けた。
男達から乱暴にされかけた華音を心配して、あの日の夜に訪ねて来てくれた時に。
佐助は珍しく三白眼ぎみの目をかっ開いて驚いていた。
(佐助くんには申し訳なかったな。美少年の話を聞いた時に言うべきだったか…いやでも…)
もっと前に打ち明けたとして、デメリットの方が大きかった。
何故なら、あの場には信玄と継国を知る謙信がいたから。
もとより継国家は戦云々に介入してはいけないのに、織田軍に不利になるようなことはしたくなかった。