第12章 月の国の一族
「お前、なんで今まで言わなかったんだ…!?」
「…秀吉どの、貴方は私と初対面の時、私にどんな印象を抱いていましたか」
「……あ」
皆まで言う必要はないだろうと、華音は言葉を選んだ。
華音の言う通り今こそ信頼を置いているが、当初は華音に持っていたのは疑いと警戒だ。
そんな状態で未来から来たなどと言えば、支離滅裂だと信じもしなかった。
ただでさえ、今言われて混乱しているというのに。
頭の中の整理に忙しい秀吉に対して、信長はどこか納得した顔をしていた。
「信長様は…そんなに吃驚されておられませんね」
「ただの娘ならば分からんが、貴様は足りぬ所も長けた所も極端だったからな」
信長にとって華音という娘は異質そのものだった。
町娘というには身分の弁えを通り越して、誰にでも対等な目線であろうとし、実際それに多くの人が応えている。応えるだけの器量を持っている。
姫というには凛々しく、か弱いという言葉とは無縁だ。
女武将というには刀や弓の心得はない。
何より、医者というにはあまりにも膨大な知識を持っていた。
「“この世界が球体の形をしている”という説を誰もが理解できる言葉で説明し、俺以外の者達を納得させた時なんぞ笑いを堪えるのに必死だったぞ」
「あの時肩震えてたのってそれですか」
「最近では三成に鉄が水に浮く理屈も説明したらしいな」
「飲み込みが早くてすんなり理解してもらえました」
球体説云々については華音が理系人間だから説明できたことであって誰でも理屈を知っているわけではない。
しかしもう一人の現代人である佐助も理系なのでおそらく可能であるので何も言わないことにした。
今度地動説も教えようかなと思っているうちに、秀吉はある程度頭の整理がついたようだ。
「…五百年後って、どれくらい文明が進んでいるんだ?」
「その丸い世界を空の果てから見ることができる乗り物が造れるぐらいには」
華音の説明自体は大変わかりやすいのに、頭が追いつかない。
「では華音、貴様はこれから起こることも分かるのだな?」
信長の鋭い質問に、華音は初めて言葉を詰まらせた。