第12章 月の国の一族
「__さて、そろそろ貴様の正体を明かしてもらおうか」
「こわっ」
「空臣、声が漏れてる」
いつぞやの時のように、殺気立って仁王立ちをし、目を鋭くする信長の前には何故か正座をさせられている美少年、もとい空臣の姿。
実際は信長は空臣を殺す気はないが、華音のこともあり怒っていないわけではなかった。
特別鈍感ではない華音は信長の気持ちに対して歯痒い気分になったので、これ以上は照れているのが顔に出てしまうと思って考えるのをやめた。
「正体って…わざわざ明かすようなものは俺には無いよ。ねぇ」
「まぁ、うん」
「ほら」
「テキトーな答えで納得させるな」
「誰がテキトーだって?」
若干不満げな表情を見せた華音は、少し考えてテキトーではない提案をした。
「空臣の家の御当主なら、皆納得するんじゃないか」
華音の提案に、空臣はあからさまに体をビクつかせた。
「ああいやえっと、父上は今その、ほら、忙しいから」
「息子が暇してるんなら父親も暇だろう」
「何その理屈!?」
華音の理屈がめちゃくちゃなのは今に始まった事ではない。
しかしそれを差し引いても、空臣がやたら父親を避けたがっているのは明白だった。
「何でダメなの?」
「…だって怒られる」
「当たり前だ」
「尻叩き千回やられる」
「痛そうだな」
「尻が割れる」
「人間の尻はもともと割れてる」
「華音、頼むから尻とかそういうこと言わないでくれ」
この時代で女性というのは、表面上はあくまでも言葉を丁寧にしなければならない。
見た目だけは高貴な姫と言われても差し支えない容姿をしている華音がそっち関連の言葉を口にするのは、男として耐えられないものがあった。
しかし現実とは残酷で、華音は医者なので大分ズバズバと言うことは言う。