第11章 姫さん、再会する
一足先に“その場所”に着いた佐助は、追跡していた男の部下の首に手刀を入れて気絶させた。
(華音さん…!)
佐助の記憶が正しければ、ここは今は空き家だが元は男女の“交流”を深める茶屋だったはずだ。(あくまで安土探索のために見かけただけで、断じて中に入ってはいない)
謙信達を訪ねた男達は、織田軍に滅ぼされた小国の残党だった。
追い詰められた人間は何をするかわかったものじゃない。
ましてや、信長に対して強い憎しみや怨みを持っている者なら尚更、寵姫と見做されている華音をとことん利用するだろう。
間に合ってくれと願いながら、佐助は人の気配がする奥の部屋へ走った。
「華音さん!!」
佐助は部屋の中の有り様を見て青褪める。
三人の男が手を縛られた華音を囲い、真ん中の男が華音の着物を脱がせようとしていた。
華音の着物はすでにはだけられており、肩と胸元のサラシが露出している。
「何だてめぇは!!」
男達のうち二人が佐助に向かって抜刀したが、日頃から謙信によってほぼ一日中鍛えられていた佐助相手には無駄だった。
あっという間に二人をのした佐助は、あと一人だと華音の方を振り返る。
しかし、
「ガハッ!!」
佐助が目にしたのは、男の首に膝を思い切り入れた華音の姿だった。
はだけた着物は皮肉にも足の自由を許し、華音に抵抗の余地を与えていたのだ。
喉と顎に衝撃と激痛が走った男はそのまま倒れ、気を失った。
ぽかんとした佐助に構わず、華音はその場に立ち上がった。
「ありがとう佐助くん」
「…いや…俺が来なくても良かったんじゃ…」
「そんなことはない。三人は流石にまずかった。今のも佐助くんに気を取られた隙を突いただけだから」
どの道抵抗はするつもりだったと言外に華音は告げる。
「手の縄解いてくれないかな」
「あ、うん」
後ろを向いて佐助に縛られた両手を差し出す。
解いている時に、佐助はこの縄が緩んでいることに気づいた。
「……華音さん、念の為に訊くけどこの縄はどうするつもりだった?」
「佐助くんが来ていなかったら関節を外していた」
佐助がいち早く救出に向かったらのは正解だった。