第11章 姫さん、再会する
場所は変わり、謙信達が拠点の一つとしていた地に華音を拐った一味の頭領が謙信と信玄へ謁見を願い出た。
越後の龍と甲斐の虎が生きて手を組んでいるという噂は、もうあちこちから聞こえる。
一味はその噂を信じ、信長達よりも一足早く居場所を突き止めたのだ。
「信長の寵姫を拐かしただと?」
「如何にも。現在は監視を付けて部屋に閉じ込めております」
頭領の男はニヤついた笑みを隠しもしない。
謙信と信玄がこの話に乗ってくれると確信しているからだ。
謙信はともかく、信玄ならば時に非情に女を戦に利用する。
信長の首を狙っている今、いつ華音が信玄に人質にされてもおかしくなかった。
華音自身もそれは分かっており、堂々としていられたのは佐助がいたからだった。
今まで華音が“そう”ならなかったのは、そばに佐助がいたから。
今まで信玄が信長にその手を使わなかったのは、信長にそんな相手がいなかったから。
しかし今回はさすがの華音達も予想外だった。
謎の美少年や死んだはずの武将達の話に踊らされたことは否めず、結果としてそれ以外の勢力に一本取られたのだ。
謙信は男を切り捨てたい衝動に駆られた。
理由はわからない。
ただ、真っ先に浮かんだのは華音の顔だった。
かつて謙信の心に思った女とは何もかも違うというのに。
謙信の様子を見た信玄はさりげなく制し、話を進める。
「…その姫に会わせてもらおうか」
「もちろんでございます。こちらに」
男は口角を上げ、そばにいた部下に先に行くよう命じた。
部下は早足で目的地へ向かって行った。
一部始終を傍らで見ていた幸村と、念の為屋根裏にいた佐助はこの状況に絶句する。
男の気持ち悪い笑みから、華音が今どんな状況に遭っているのか想像したくもなかった。
男達は華音の表向きの肩書きが信長の寵姫であることには何の疑問も抱かなかった。
華音にはそうさせる器量があったからだ。
ナニかがこみ上げてくるほど嫌な予感がした佐助は、謙信にしか聞こえない音の大きさで二回そこを叩いた。
“先に行きます”の合図の後、佐助の気配が完全に無くなったのを三人は感じ取った。