第10章 絡みついた刻の糸は、月の国の禁忌に触れる
時は遡り、華音が美少年に連れ去られた時のこと。
首を取られて気絶させられた華音は、安土城付近を流れる川の上流が上から見える場所まで連れられた。
「起きて」
少年は華音をそばの木を背にして降ろし、肩を揺すって華音を起こす。
「…う」
華音はゆっくりと目を覚ました。
「…話、するつもりなら、首、狙う必要、は、なかったんじゃ、ないか」
首の痛みと半覚醒なのが相まって、途切れ途切れの言葉で少年を責めた。
「見ての通り俺はガキだからね。悪いけどあんた相手にそんな余裕はない」
華音は武人ではないが、単純な身体能力はなかなか高い。
少年が華音を気絶させることができたのは、それだけに全神経を注いだから。
要するに、あの瞬間だけ運は少年に味方したのだ。
「あんたは…」
少年はずっと気になっていたことを華音に訊こうとした。
しかし、急に躊躇いが生まれて言い淀む。
互いに沈黙が走ったその時。
「貴様が信長の寵姫だな」
「「!?」」
華音と少年の目の前に複数人の男達が現れた。
「…なにあんたら。この人に何のよ、
「逃げろ」
「……え」
少年が気づいた時はすでに、衝撃と共に水面に体が打ち付けられていた。
状況を誰よりも早く察知した華音は、少年の体を強引に押して川に突き落としたのだ。
「落ちたヤツは放っておけ!男の方に用は無い、捕らえろ!!」
「……くっ」
首の痛みがまだ残っていた華音は呆気なく捕まった。
手に縄をつけられる感覚を最後に、華音の意識は暗闇の中へ堕ちた。