第9章 姫さん、拐われる
「政宗どの、野菜の方切り終わりました」
「そのまま先に進めてくれ。やり方は一通り頭に入ってるな?」
「ラジャ」
「それ返事か?」
華音はもうすでに、政宗が厨房の手伝いを頼むことができるくらいには信頼を得ていた。
元々華音は料理が得意だった。
特に魚の捌き方は素晴らしく、政宗ですら舌を巻いたという。
「そういや、この前言ってた美少年には会えたのか?」
「いいえ全く。政宗どのは?」
「それらしいのは見てねぇな。そろそろ本格的に捜索に出た方が良いかもしれない」
「少し大袈裟では?」
「何かあってからじゃ遅いからな」
政宗に正論を言われ、それもそうだと華音は素直に受け入れる。
「よし、夕餉の仕込み完了。華音、お前はこの後なんか予定あるか?」
「政宗どの達さえ良ければ、そろそろ眼の方を診たい頃合いです」
「もうそんな経ったのか…」
華音は自分の右眼をトントンと触ると、政宗はすぐに華音の言った意味を理解した。
政宗は幼い頃に右眼を失った。
失うだけならまだしも、眼帯では防げない菌などが右眼に入り、そこから脳に至るという可能性を懸念した華音が申し出たのだ。
要するに定期検診である。
今回で二回目となるが、一回目の時は、念の為当事者である片倉小十郎と華音と交流のある支倉常長が監督のもと行われた。
一回目の時を思い出したのか、政宗はどこか遠くを見る表情をする。
「?心配しなくても小十郎どのと常長どのがいるから、私が何かしようとしてもしないし、させないでしょう」
「そこは別に心配してない…というか、どっちかっていうとアイツらの方を心配している」
「また号泣するかもって?」
「他人事みてーに言うな。そもそもの元凶お前だろーが」
「ええ……」
心外だと言わんばかりに、華音は形のいい眉を顰める。
華音の反応はこうだが、政宗からしてみれば、“あれ”は華音がおかしい。
何を隠そう、華音は初めて政宗の眼帯を取ってそこを見た時、誰も思いもしなかったことを無意識に口走ったのだ。
___奇麗だ、と。