第8章 姫さん、探し人になる
「華音さん、大事な話があるんだけどいいかな」
「?うん」
信玄と華音の攻防は、佐助の発言で幕を閉じた。
「君は“ここ”に来てから、黒髪で13.4歳くらいの美少年に会ったことってある?」
「黒髪の美少年…?」
佐助の言う“ここ”は、この戦国時代のことを指している。
華音はすぐに気づいて、信長と出会った日から遡るが、自分より年下の男にはほとんど会った記憶はない。
常長あたりは黒髪だが、少年というより青年だ。
若いが14歳よりは確実に上だろう。
美少年と聞いて信長の小姓をしている男を思い出したが、脳内で彼が「怒るよ華音様」と黒い笑顔で言ったので考えるのをやめた。
「…いや、いないな。ついでに言えば、私にはその歳の弟も息子もいない」
「息子ではないのは分かるから大丈夫」
一身上の都合で、華音はあまり人に自分の年齢を言いたがらない。
しかし、少なくとも14歳の子を持つ歳ではない。
「その美少年がどうかした?」
「数日前にその美少年が俺と幸村に接触して来て、華音さんのことについて訊いてきたんだ」
「…!どんなことを訊いてきた?」
「それが___」
『訊きたいことがあるだけさ』
『訊きたいこと?』
『そ。今お兄さん達が話してたお姫様について』
少年は無邪気に笑う。
つい先程まで話題になっていた少女について訊かれた手前、何のことだとはぐらかすのは不可能だった。
『そっちのお兄さんと同じところ出身なんだよね?お兄さんはどこの人?』
いきなり鋭い質問が来た。
華音はタイムスリップするまでは京都に住んでいたようだが、それを迂闊に話すわけにはいかない。
故に佐助は、自分の出身地を言った。
奇跡的に、佐助の出身地と華音の出身地は近かった。
この安土や越後からはだいぶ離れているので、そこの平民だったと言えば揚げ足は取られない。
『君はどうしてそんなことを訊くの?』
『だって“奇麗な”お姫様がいるんだから、男として気になるでしょ?』
佐助と幸村は、その言葉が嘘を混ぜた本心だとすぐに分かった。
何故なら、目の前の少年のように己の魅せ方をよく理解し、目的のためにそれを利用する男をよく知っていたから。