第8章 姫さん、探し人になる
『その女に会ってどうするつもりだ?』
幸村は警戒しながら少年に訊く。
少年は表情を変えず、美しい顔に無邪気な笑みを浮かべたまま答えた。
『確かめたいことがあるんだ』
『確かめたいこと?』
『そう。どうして俺達一族しか使えないはずのモノをお姫様が使えたのか、会って確かめないといけないんだ。だから探してる』
嘘をついているようには見えなかった。
少年の言う“モノ”が何か分からない佐助と幸村は、疑問が晴らせずにいる。
しかし、少年はそれ以上言うつもりはないようだ。
『話してくれてありがとう眼鏡のお兄さん。そろそろ行くね』
『待て』
『ん?』
『“俺達一族”って言ったな。お前、名は?』
一騎当千と謳われる武将、真田幸村。
その名は伊達ではなく、幸村から発せられる威圧に少年は目を見開く。
『(ああ、この人はきっと“人の上に立つ人”だ)』
図らずも幸村を気に入った少年は、勿体ぶらずに己の名を言った。
『俺の名は___』
「___“継国空臣”」
「……継国?」
その名に反応したのは、華音ではなく謙信だった。
「佐助、その童は本当に継国と名乗ったのか」
「はい。俺だけではなく幸村もちゃんと聞いていましたよ。童っていうより、美少年でしたけど」
「つぎくに……」
「華音、継国を知ってんのか?」
「何というか、聞いた名です」
謙信と違って華音は曖昧に答えた。
様子からして、謙信の方が何か知っていそうである。
四人は謙信を一斉に見る。
謙信は形の良い眉を顰めて口を開いた。
その内容は、文献にもなかった衝撃の事実だった。
「…継国は、俺が幼少の頃に剣を習った者の名だ」
「はぁ!?」
「初耳ですね」
「誰にも言っていなかったからな。あの方も広まるのを嫌って記録を残させなかった」
「……華音さん?」
「…ちょっと待ってください。考える時間をください」
流石の華音もキャパオーバー寸前だ。
彼らは大人しく待つことにした。
華音が頭の中を整理している間、各々が謙信の師である継国なる人物について想像を膨らませていた。
ちなみに、幼少期を知られている謙信としてはなかなか複雑な心境である。