第7章 刻(とき)の糸は絡みつく
華音は筋が真っ直ぐ通ったような人間だ。
女性に求められる淑やかさなど二の次で、高潔さと意志の強さを隠そうともしない。
この時代の女性にはありえないものなのに、それが三成にとってはひどく眩しく感じた。
願わくば、彼女の父に一度会ってみたいとさえ思った。
「…やはり素晴らしい方だったのですね」
「尊敬はしている。でも同じ死に方は出来ない。それに私はもう二度と自分の力を見誤って罪無き人を傷つけたくない。だから、持てるものは全部やってみせる」
華音は聖人君子ではない。
過去に犯した大きな過ちを戒めにしている。
守られるのではなく、力をつけて守る存在になりたいと。
それが知識であれ医術であれ同じこと。
華音の強さはそこに起因していた。
(ああ、だから貴女はあの時、信長様の御命をお助けくださったのですね)
三成は改めて、華音の人間性に強く惹かれた。
いつの間にか、お茶はすっかりお互い空になっていた。
「…喋り過ぎたね」
「そんなことはありません。聞けて良かったです」
「じゃあ今度は、三成くんのことを聞かせて。その後は私の母のことを話すよ」
「是非」
こうして当たり前のように次のことを話すところが、三成には心地良かった。
___リン
その時、不意に華音の左耳に付けていた鈴の耳飾りが、誰かを呼んでいるように音を鳴らした。
しかし、ちょうど襖の隙間から通った風の音で遮られた三成にはそれが聞こえなかった。
生まれつき左耳が聞こえない華音にも、その鈴の声は決して届かない。