第7章 刻(とき)の糸は絡みつく
___リン
「…面倒なことになりそうだな」
嵐の前の静けさを一蹴するように、普段鳴るはずのない鈴の音が括り付けた右足から聞こえた。
一見青年にも見えるその男は、これから起こるであろうことを想像し、面倒くさそうにため息をつく。
「向こうは…彦太郎と竹千代…?また懐かしい名前だな。それと…ああ、虎千代も来そうだ。何してくれたんだアイツ…親の顔が見てみてーな。親俺だけど」
冗談混じりで呟くのは、名を馳せる数々の武将達の幼名。
「まあアイツの気持ちも分からんではねーけどな…なんだってあの血が流れてる奴がそこにいるんだ?」
誰に答えを求めるわけではない問いは、静寂の中に消えていく。
穏やかだった男の声色は、僅かな冷気を帯びていた。
「……俺が考えてもしゃーねーな。若造共で勝手にわちゃわちゃやってりゃいいさ。
あとは狼を使って報告してくれ。ご苦労だった。下がれ小太郎」
「はっ」
冷気を帯びた声色と一転して、退屈を紛らわすような声で小太郎と呼ばれる忍に命じる。
気配が完全に無くなり、誰もいない空間は、何事にも気を揺るがすことのない男の心を表しているよう。
「……生きる気があるなら、退屈はさせてくれるなよ。
同胞の姫さんよ」