第7章 刻(とき)の糸は絡みつく
時同じくして、三成と華音は諸葛孔明の話にひと段落がついた。
「華音様の父君と母君はどんな方なのですか?」
奇しくも光秀や家康が今知りたがっていることを問いた。
三成としては、本当に何気ない質問なのだろう。
これだけ話の合う女は早々いない。
きっと親の育て方にタネがあるのだろうと。
華音にとっては別段都合の悪い質問ではなかった。
敬愛する両親の話をするのは吝かではないのだ。
「…父はレスキュー隊員だった」
「れすきゅー?」
「火事とか災害とか起きた時に、真っ先に民の命を優先して助ける人」
「華音様の故郷にはそのような役職があるのですか」
華音はまだ誰にも、自分が未来から来たと告げていない。
敢えて聞き慣れない言葉を使ったのは、両親のことについては嘘はつきたくなかったからだ。
一呼吸置いて、三成に告げた。
「父さんは十年前に亡くなった」
「…!」
「小さい子を庇う格好で、胸に大きな傷を負っていた」
「それは…事故ですか?」
「分からない。当時の子供はまだ幼かったから証言も曖昧だった。でも今考えれば、“誰か”に襲われそうになっていたのを助けたんだと思う」
華音の話から察するに、“れすきゅー隊員”とは人の命を守るもの。
ならばその責務を全うできたのは誉れではないかと三成は思った。
「立派なれすきゅー隊員だったのですね」
「死んでしまえばそうとは言えない」
しかし、華音の考えは違った。
「“生きて帰って来れなければレスキューとして失格だ。”
これが父さんの口癖だったし、私もそう思っている。
父さんは私が娘だろうと息子だろうと一緒で、いざという時に自分で自分の身を守れる術を教えてくれた。厳しかったけど、私はその厳しさに応えられる人間になりたいと思った」