第31章 終戦
幸村の言葉は、あくまで肺の病気を患う多くの人間の統計的なことを指しているのだろう。
だが、医術に興味がないであろう幸村がそれを聞くのは、特定の人物が根底にあることが隠せていない。
それでも華音は医者だから、織田軍の味方であっても幸村達の敵ではないから、答える義務がある。
「先程も言ったように、その人を診ない限りは断言できませんが……薬だけで治すことは難しいと思います」
「……そうか」
「何か迷っているのなら早めに決めることをおすすめします。手遅れになる前に」
「わかってる」
何がとは言えないだろうが、幸村が迷っていることは表情からして明らかだ。
曖昧なまま話が終わったところで、義元が部屋に入ってきた。
「幸村、佐助。準備終わったよ」
「やっとかよ」
「見送ります」
「ここでいいよ華音さん。無理しないで」
「病み上がりは大人しくしてろ」
言葉は悪いが、幸村なりに華音の身体を心配しているのがわかる。
大人しく華音は布団から出ないが、それでも姿勢を正して幸村達を見上げた。
「華音さん、そのうちまた越後土産を持って安土に忍びに行く」
「是非。お茶淹れて待ってるよ」
義元と入れ替わる形で幸村と佐助は出て行った。
「義元どのも是非また安土に物見遊山に来てください。城下の品揃えは季節と共に変わります」
「……うん。華音、また君に会いに行くよ。君のことが好きだから」
天気でも言うようにさらりと言われたが、義元の華音に対する言葉には、毎度ちゃんと情がこもっていたことを知っている。
義元の気持ちには察するところがあったが、応えられないし告白されてもいないので何も言わなかった。
今の今までは。
「……私は、」
「だめ。俺は色良い返事以外は聞きたくないから、言わせてあげない」
口を開こうとした華音を、義元が人差し指を華音の口元にあてて制す。